もう10か月以上も前の話になってしまいますが…
もるとさんのFAN BOOKに参加した際、
「別の視点でのお話をこっちに載せる」と
当時のブログ記事で申しておりました。
それがようやく完成しましたので、下に貼り付けておきたいと思います。
曲をイメージして作ったショートストーリー。
稚拙な文でお恥ずかしいですが、ご興味のある方は続きをどうぞ~。
KOTOKOさんの素敵な歌詞は
こちら。
『Largo -side B-』
「随分寒くなってきたわね。冬ももうそこまで来てるんだね」
木枯らしに銀杏が舞う秋空。
体を縮めながら寒そうに言う君のセリフに、僕も頷いて同意を示す。
放課後、帰り道の途中にある公園で、君と二人、いつものように
ベンチに座って缶コーヒーを飲んでいた。
僕はブラックで、君はミルクたっぷりのカフェオレ。
嬉しそうに飲む君を見ていると、こっちまで嬉しくなってくるから不思議だ。
だけどそんな気持ちを知られるのが照れくさくて、
つい意地悪を言ってごまかしてしまうこともあった。
家が近所の僕たちは、幼稚園からの幼馴染みだ。
中学でなんとなく疎遠になってしまったけれど、
高3で同じクラスになってからまた話すようになり、一緒に帰るようにもなった。
あれから、早くも半年が経とうとしている。
今でこそ当たり前になっているけれど、一旦疎遠になった関係を元に戻すには
それなりの策を講じる必要があった。
…君は気付いているだろうか?
二人で過ごすこの時間が、偶然や成り行きなんかじゃないってことを。
そして今日も、君を引き止められる限界の時間が来た。
飲み干されて空いた缶を恨めしく思いながら、
言いたくない言葉を口にしなければならなかった。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
精一杯の笑顔を君に見せて。
「うん、そうだね」
公園を出て、夕日に照らされた坂道を二人で上っていく。
長い坂を上りきったところが分岐点、別れてそれぞれの家に帰ることになる。
この上り坂が寂しい色に染まって見えるのもいつものことだ。
「じゃあ、また明日」
「じゃあね」
別れ際、笑顔で手を振ってくれる君に対して、
短い返事を置き去りにし、背を向けてさっさと歩き始める。
本心を悟られないように、いつも必死だった。
そんな毎日を繰り返しながら、あっという間に卒業式の日になってしまった。
僕は春から、地元を離れて専門学科のある大学に進学することになる。
地元を離れることに…君から遠い地で過ごす生活に、不安がなかったわけじゃない。
本当にこれでいいのか?と、何度自問自答したか知れない。
だけど…どうしてだろう。
君との未来は、いつだって自分の中に感じているんだ。
そんな“予感”があったからこそ、遠い地での生活にも決断に踏み切ることができた。
君との最後の帰り道。
今このタイミングで自分の気持ちを伝えるべきかどうか、未だに決めかねていた。
今日伝えたところで、僕はすぐに遠くに行ってしまうのだ。
「来週だっけ? 向こうに行くの」
缶の淵を指でなぞりながら、君が口を開く。
素直に答えるのがつらかった。
「うん。来週の金曜日にこっちを出るよ」
「そっか…。一人暮らし、大変ね」
「そうだなぁ。頑張んなきゃね」
――しばしの沈黙。
このまま会話を終わらせたくなくて、何か話さないとと思った瞬間、
言葉は君の方から発せられた。
「大学を卒業したら、こっちに戻ってくるのよね?」
「? うん、そのつもりだけど」
「じゃあ、四年後の今日、またここで会わない?」
…予想外の展開だ。
君の方からそんな提案をしてくれるなんて。
声や表情はいつもどおりだけど、缶に触れる君の手が、微かに震えているように見えた。
緊張、しているのだろうか。
「…うん、分かったよ」
断る理由などどこにもなかった。
自惚れ? 思い上がり?
…そうかもしれない。
自分の勘違いなのかもしれない。
だけど。
「ありがとう、向こうでも頑張ってね」
待っていてくれる君を想えばどんなことでも頑張れる。
きっとやり遂げて、君の元に帰ってくるよ。
―――四年後。
懐かしいこの地に帰ってきた。
駅も、道路も、街並みも、すべてが自分を温かく迎えてくれているように見えた。
約束の時間に、いつもの公園の、いつものベンチを目指す。
逸る気持ちに比例して、段々歩くスピードも速くなっていく。
競歩じゃないんだから、と一人で苦笑してしまった。
ようやく到着した懐かしい公園。
入り口から、遠くのベンチに座っている君の姿が見えた。
自然と笑みがこぼれ、気付けば全力で手を振っていた。
君もこちらに気付き、手を振りながら走ってきてくれる。
四年という月日は、短いようでとても長かった。
君がここにいる、たったそれだけのことなのに、奇跡のように輝ける出来事に思えた。
…胸に湧き上がる邪な衝動。
振り払うように言葉を発した。
「久しぶりだね、元気だった?」
ベンチに座り、しばらくお互いの近況を話し合った。
言葉を交わす度に、四年間の空白が少しずつ埋まっていくのを感じる。
3月の風はまだ少し冷たかった。
会話を中断し、温かいものを求めて、近くの自販機で飲み物を買う。
僕はブラックで、君はミルクたっぷりのカフェオレ。
「甘いのしか飲めないなんて、お子様だな」
「なによー、いいじゃない、好きなんだから」
懐かしい会話。
昔を思い出し、顔を見合わせて、二人して吹き出してしまった。
ひとしきり笑ってから、徐に君が言う。
「…ねぇ、卒業式の日に私がここで言ったこと、覚えてる?」
ドキン
心臓が高鳴ったのを感じた。
もちろん、忘れるはずがない。
「…うん、覚えてるよ」
「あなたにね、伝えたいことがあるの。ずっとずっと、言いたかったの」
「うん……」
鼓動はどんどん大きく速くなっていく。
公園中に響き渡っているんじゃないかと思えるほどだ。
…君は、これ以上にドキドキしてくれているのだろうか。
――数秒の間。
心臓の音がうるさい中、近くのブランコが風に揺られ、
キィ、と微かな音を立てるのが耳の端に聞こえた。
そして君が口を開く。
「…あのね……」
君の言葉は、僕の予感を現実のものにしてくれた。
…このときの感動は、どう言い表せばいいだろう。
胸に湧き上がる衝動。
「もう抑えなくていいよ」と、誰かが頭の中で囁いた気がした。
衝動のままに体が動いた。
そしてまた、胸の内に生まれた新たな“予感”。
命のある限り、これから君と一緒に歩んでいくんだと。
喜びも、嬉しさも、挫折や涙さえ――
すべてを二人で分け合える幸せな時を、ずっとずっと過ごしていくんだと。
強く抱き締めた君の温もりとともに、そんな未来を確かに感じていた。
PR